見出し画像

イマジネーションフィッシュ(もうあかんわ日記)

毎日だいだい21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。
イラストはaynさんが描いてくれました。

だれとだれが結婚しましたというニュースと、だれだれが亡くなりましたというニュースが、同時にスマホへ通知される日だった。

季節があっという間に変わってしまったなあ。去年の今ごろは、会社を辞めて、作家になってダバダバしていた。たくさんの人と出会い、ちょっとの人と別れた。

別れのなかでも一番決定的なのはやっぱり「死」なのかな。

わたしには経験則がある。大切な人が死んで、泣き濡れる日から、過去と未来を考えないようにして騙し騙し暮らす日々に変わるまでが、だいたい一年。そういうこともあったねと笑って思い出せるようになるまでが、だいたい十年。

とんでもない悲しみでも、砕けて砂になっていくまでのだいたいの目安がわかっていると、とりあえず絶望はしないと思う。地図があれば、ただ歩いているだけでも、歩んでいくことになる。

わたしの地図にはずっと「出会いの数だけ、別れが増える。できるだけ出会わない方がいい」というのがあるけども、そんなこといったって、出会いはやめられない止まらない、かっぱえびせん。

出会うというのは、同時に「この人となら別れを乗り越えられる」と思えることだ。別れてでも、出会いたい人が地球にはいる。いい人のために、いい別れを。


と、いうことで。


画像1

こちら、今日、出会ってすぐ別れる魚になります。


正確には、母が北海道で出会った優しき人たちから、退院祝いとして送ってもらい出会った魚になります。

画像2

とてもでかい魚になります。


わかってる。どう考えたっておいしい。こんなにでかくて、身がぎっしりして、つやつやしてる魚の一夜干しを見たことがない。尊い。わかってる。

ただわたしは、魚をさばくのが怖いのだ。生の魚が怖い。まんじゅう怖いという言い回しではない。本当に怖い。ごめんなさい。

昨年、大阪の漁師さんを救いたくて、ハマチを泣きながらおろしたことがある。精神的にはギリギリであった。しかもあれは、プロが二人も寄り添ってくれたから、できたようなもん。

母に

「魚食べたいけど、グリル入る大きさに切るの怖い。切って」

と言うと

「切りたいのはやまやまやねんけど、しばらく腕に力入らんのよ。でっかい包丁握られへんわ」

戦力外であった。


話を聞いていたばあちゃんが

「こんな立派な魚に失礼や!教えたるから、はよ切りィ!」

としびれを切らして、ド正論を撃ってきた。たまに正しいことを言いなさる。

腹を決めて、わたしは包丁を握った。

画像3

めちゃくちゃ怖い。魚の手触りも怖いし、「はよせえ!」「そこちゃうわ!」とベンチからゴリッゴリに檄を飛ばしてくる監督のばあちゃんも怖い。

「う、うあああ〜〜〜ッ!」

「うるさい!ちゃんと見るんや!」

ちゃんと見た。ひれがちょっと破れて、まな板の上に散ってしまった。ひれも怖い。なんかちょっと薄くなって向こう側が透けているのが怖い。

画像4

カウンターキッチン越しに、母がゲラゲラと笑いながら眺めていた。

カウンターキッチンはそういう目的で作られたわけではない。リビングで遊ぶ子どもを見ながら、親が安心して料理をする幸せなワンシーンのために作られた。

決して、魚を料理しながらむせび泣く子どもを笑って見るための設備ではない。パンと見世物、魚と見世物。母の娯楽が古代ローマ貴族。

しかし、そうやって料理された魚は。

画像5

ハチャメチャに美味しかった。


グリルで焼いただけなのよ。

身がぷりっぷり、旨味じゅわあっ。でかい背骨の表からも裏からも、でっかい身がボロンボロンと取れる。ポン酢とだし醤油で、無限にいけた。

昨日のチョびに続き、北海道って、やっぱすげえや。わたしの徳が低いばかりに怖がってしまって、魚さんに申し訳ないな。

一尾ずつ真空パックされて届いたのだけど、頭がもうなくて、袋にもなにも書いてないから、なんの魚かがわからなかったのが心残り。

母は「カレイは美味しいわあ」

ばあちゃんは「こんなにでっかいヒラメ見たことない」

弟は「タイ!(たぶんタイしか魚を知らん)」

わたしは「スズキってこんなに旨味あるんや」

と家族全員、ぜんぜん違う魚を口走りながら、やんややんやと褒めていた。混乱しそうになった。なんの魚なのかを、知恵を尽くして議論する余白がまったくない家族だ。

各々、名前が浮かぶ魚だと思い込みながら、一心不乱に食べていた。イマジネーションフィッシュ。

お客さまの中に、魚博士はいませんか。


↓ここから先は、キナリ★マガジンの読者さんだけ読める、おまけエピソード。

今日は、ばあちゃんの内科診察に付き添ってきた。

近所でも爆裂に混むという診療所なので、朝一番の8時30分に家を出ることになったのだが、わたしが起きたのは8時25分であった。

続きをみるには

残り 820字 / 1画像

新作を月4本+過去作300本以上が読み放題。岸田家の収入の9割を占める、生きてゆくための恥さらしマガジン。購読してくださる皆さんは遠い親戚…

週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。