見出し画像

姉弟はそういうふうにできている(もうあかんわ日記)

毎日だいたい21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。

だめな大人なので、ちょっと気を抜くと、グダグダになる。

たとえば、靴。

「そろえなさい」と口すっぱく言われて育った。よそのご自宅や、食事で座敷にあがる時は、さすがにそろえる。

最近は実家でもやっとそろえられるようになったけど、一番ひどい時はこの有様だった。

画像1

大学生のときに一人で住んでいた古民家の玄関だ。勉強に仕事にと一番しんどかった時期とはいえ、さすがにこれはやばい。どんな精神やってん。郵便くらい見ろ。

母は「これをやばいと思ってくれることに感動してる」と、静かに成長を褒めてくれた。

今はさすがにそんなことないけど、「靴をそろえるよりも夢中になること」が、入室と同時に起こると、もうだめ。靴も服もしっちゃかめっちゃかに脱ぎ散らしてしまう。

弟はというと、わたしとは性格が真逆だ。

ていねいで、よく気がついて、きっちりしている。週に一回、自分の棚をなにはなくても整理整頓しなおしてるのを見て、姉は驚愕した。

同じ家で育った、違う文化圏の人。母はいつも「同じように言って聞かせたはずなんやけど」と、首をひねっている。

画像2

ちなみに、靴を脱ぐと、わたしの足はこうなっている「なんで素材も色も違うやつ履いて平気なんや」と、今度は母と弟が驚愕した。

わたしは幼いころから近所の人に「お姉ちゃんはえらいねえ、良太くんの面倒をみて」と、よく褒められてここまできた。

ただ一緒に歩いているだけで言われたので、たぶん、障害のある弟の面倒を見て、という枕詞がつくんだと思う。

いやな気分になることはないけど、なんか、申し訳ない気分になる。どっちかっていうと、もっぱら面倒を見てもらっているのは、わたしだ。

たとえば、わたしは弟とよく、二人で旅行にいく。

わたしはホテルという空間が好きなので、客室のドアを開けるときはいつも、ワクワクする。これは、ドアを開けた直後の写真だ。

(自分ではわからなかったけど、母が以前、神妙な顔で撮っているのを見て、ようやくコトの大きさに気づいた)

画像3

弟の服と靴は、これだ。

画像4

ハンガーにかけられている。服をアウターとトップスにわけてハンガーへかける、という発想がなかった。この男は天才なのではないか。

ちなみに、わたしのアウターは、床に落ちていた。

画像5

不思議すぎる。さすがにわたしも、身につけるものを床に捨てたりはしない。たぶんどこかにテキトーにかけたと思うんだけど、飛んでいったのかな。

画像6

入り口から入ってきたはずなのに、なぜか靴は外に向かって、ダンスの最後みたいなポーズで散らばっていた。脱いだ記憶もない。

自問自答しながら、立ち尽くしていると

画像7

画像8

だまって弟が、服をかけてくれた。

兵十が撃ったごんをみたあとに「ごん、おまいだったんだな」と、いたく感激して後悔するシーンがある。同じ気持ちになった。青いけむりが、まだ筒口から細く出ている。

「ごめん、ごめんな。姉ちゃんのせいで」

わたしが言うと、

画像9

画像10

そんなことはええからと言わんばかりに、スリッパを出してくれた。

出してくれるまで、自分が裸足で客室を駆け回っていたことに気がつかなかった。

彼のなかでわたしは毒姉なんだろうかとはらはらしたけど、弟は「ほな、ご飯いこや」と立ち上がった。

指定したのはバカデカステーキ。もちろん払うのはわたし。会計前に弟はわたしに「ごちそうさま」と言う。そのあと弟は、行きたい場所を、スマートフォンで指さしながら、無言の圧力をかけてくる。

「ちょうどええんやな、これくらい正反対なのが」

母は呆れた。神はうまいこと、われら姉弟をつくりたもうた。

弟はきっちり、ゆっくり、ていねいだ。わたしはざっくり、ちょっぱや、発想が突飛だ。

母いわく、弟は、わたしと旅行にいくときだけぜんぜん違う顔で笑うらしい。めちゃくちゃ楽しそうで、きらきらしていると。そんなことは思ったことがないけど、そうやって前に爆進して、いろんなところへ連れていけるのは、取り落した服や靴を、弟が拾い集めてくれるからだ。

とはいえ、もうすこし、ちゃんとしないといけないかもしれない。

たまに「もう、なみちゃんは!」と怒っている。ごめんな。


そんな弟、このあいだの健康診断の結果がだいぶ悪かった。肥満だ。ダウン症の人たちにはよくある症状でもある。

グループホームで一週間、楽しく、規則正しい生活をしたせいか、ちょっと弟の顔はすっきりしていた。あとは少しでも、運動を。

走ったり、こまかい動作をしたりするのが苦手な弟が、楽しんでやれるスポーツは水泳だ。

高校生までは地元のスイミングスクールに通っていた。弟はひとりで着替えられるし、泳ぎもクロールからバタフライまで一通りできるので、「なにも問題はない」とコーチが受け入れてくれたのだ。

でも、大人になると、弟が入れるクラスがなくなった。

成人のクラスに入ろうとすると、言葉でのコミュニケーションがメインになるし、他のメンバーも戸惑うから、とやんわり断られてしまった。地元にはあとふたつ、水泳のあるスポーツクラブがあったが、クラスへの入会は断られた。

自分ひとりでプールに入ることもできるけど、弟のモチベーションは「みんなで楽しく、そして褒められること」なので、なかなか一人じゃ続かない。25mを一本泳いで、ふうやれやれ、で終わっちゃうと思う。

いろいろあたってみたら、電車で30分のところにある福祉に特化したスポーツ施設で、知的障害者向けのプール教室があると知った。

ちょっと遠いけど、何度か行ったら覚えるかなと思っていたら、かならず介助者が水着を着て、入水して見守らなければいけないらしい。

介助者て、わたしか。
わたしの方が、介助されてるけども。

ガイドヘルプっていう、障害のある人を余暇活動に連れ出してくれる福祉サービスがあるのだけど、それは一緒にプールに入るのはダメとのことだった。他にも、公共交通機関しか使えないとか、デイサービスやグループホームの送迎には使えないとか、思ったより制約が多い。

わかる、わかるよ。事故とかね、パニックになったりね、する危険性もあるから、そこはコーチも責任持って見きれないもんね。


……わたしも入るのかあ。


「一緒に泳いでもいいんですか?」と聞いたら、「基本的には立って、そばで見守ってもらう形になります」とのことだった。ふやけちゃう。

じっとしてられないわたしが、水のなかで一時間、じっとできるだろうか。

とりあえず5月から、やってみようと思う。

だけどわたしも打ち合わせとか出演とかあるから、毎週行けるかわかんないんだよな。こういうのって、個人で弟に付き添ってくれる人、でアルバイト募集した方がいいのかな。悩む。


明日はいよいよ、朝日新聞(東京版)と東京新聞に、でっかい広告が掲載される。わたしは現物を拝めないので、手にとった人は、ぜひ写真をSNSにアップしてほしい!おねがい!


↓ここから先は、キナリ★マガジンの読者さんだけ読める、おまけエピソード。

このタイミングで、お金配りとやらに当選してしまった

以前、前澤友作さんに会ったことをnoteに書いた。

ここから先は

763字

新作を月4本+過去作300本以上が読み放題。岸田家の収入の9割を占める、生きてゆくための恥さらしマガジン。購読してくださる皆さんは遠い親戚…

週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。