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【突撃!岸田の文ごはん】 田中泰延さんは、仮説を作ってボケ倒す


岸田奈美が、尊敬する人に「うまい文章の書き方」を教えてもらうため、大きなしゃもじを持って突撃する「突撃!岸田の文ごはん」!

今回は、『読みたいことを、書けばいい。』の著者・田中泰延さんに突撃。

※突撃は緊急事態宣言の発令前に実施しました。

ちなみに田中さんのTwitterは、ツイートひとつに込められたパワーワードがものすごい。えげつない。投石機みたい。わたしの春のイチオシはこれ。

そんな田中さんのファンは、私だけではない。わたしのオカンもである。そんなオカンが「田中さんに会えるなんてずるい」とゴネはじめたので。

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優しい田中さんのおかげで、母も同席させてもらうことに。一気に授業参観のようになってしまった。すごくやりづらい。

突撃!岸田の文ごはんでは『読みたいことを、書けばいい。』をあえて読まずに突撃しました。田中泰延さんには未読の人にも本の内容がわかりやすいように、お話いただきました。


まずは無理に書くな、もし書くなら……

田中:
今日はこちらの大きなテレビを、一緒に観る会ということで。(会議室に置かれている大きなテレビを見つめながら)

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岸田:
ちがいます。(笑)

田中:
えっ!『4時ですよ〜だ』を観るのでは?

岸田:
なんですか、その番組は。

田中:
ひょっとして『夕焼けニャンニャン』ですか?

岸田:
だから、なんですか、その番組は!?

田中:
セーラーズのお洋服がよく似合っていらっしゃる。

岸田:
セーラーズ……?

田中:
先日、1980年代に原宿でどれくらいセーラーズのお洋服が売れたかっていうのをテレビで観ましてね。

岸田:
あっ、さっきから1980年代のお話をされていたんだ。

田中:
そしたらなんと、千円のトレーナーにイラストを印刷するだけで、それが一万円で飛ぶように売れるんですって。

岸田:
すごい!

田中:
僕らもやりましょう。

岸田:
もっと詳しく聞きたいのですが、たぶん一記事まるまるセーラーズで終わってしまうので、どうか今日は文章についてお話しさせてください。

田中:
なんでも聞いてください。(笑)

岸田:
田中さんみたいに、おもしろい文章を書くには、なにを学べばいんでしょうか?

田中:
読みたいことを、書けばいい。

岸田:
自分が読みたいことなら、ダラダラと書いてしまってもいいんでしょうか。それだとつまらない文章になるような。

田中:
大丈夫ですよ。どんな人も「編集」という能力を持っているので。

岸田:
どんな人も?

田中:
岸田さん。あなたは朝から今までどんなことをしましたか?

岸田:
ええと、取材で岡山に宿泊して、ホテルで朝からカレーを三杯おかわりして、取材して、駅弁を買って、新幹線で食べながら新大阪に戻ってきて、母と合流して、ここへ来ました。

田中:
それが編集です。

岸田:
えっ?

田中:
朝から今まで、絶対にトイレへ行ってますよね。だけど岸田さんはその説明をしなかった。必要ないと思ったからですよね。

岸田:
そ、そうですね。

田中:
「今朝は二回トイレに行き、レバーを右にひねって水を流しまして」なんて誰も言わない。必要ないところをバッサリ切るという編集を人間なら誰でもやってるんですよ。だから読みたいことを、書けばいい。好きに書いてるつもりでも、無意識に編集してるから。

岸田:
なるほど。言葉の選び方はどうですか?

田中:
ああ、これはとても大切な話ですよ。よく聞いてください。

岸田:
はい。

田中:
僕の知り合いに、Nくんというのがいて。NくんはTOEICが満点だったんです。

岸田:
すごい!

田中:
TOEICの満点ってなんぼやったかな、たしか990点とか。まあ僕は、TOEIC2000点なんですけどね。

岸田:
990点で満点なのに!?あとの1010点は?

田中:
踊りなどの芸術点です。

岸田:
まさかの芸術点。(笑)

田中:
ともかくNくんは、TOEICが満点なのに、英会話教室に行ったこともなければ、留学もしたことがないんです。どうやって勉強したのかを聞くと「中学校と高校の授業でやりましたよね」と言われて。

岸田:
天才だ!

田中:
それだけ日本の英語教育カリキュラムがしっかりしてるんですよ。でも多くの人は、寝てたり、隠れて弁当食べてたり、隣の人と手紙交換したりして、ちゃんと学んでないんです。

岸田:
ああ、わたしもそうです。テストも一夜漬けだったから、ぜんぜん覚えてない。

田中:
ちゃんと授業を聴いてたら、英語も喋れるし、文章も書けるんです。それをやってこなかった人は、お金を払って英会話教室や作文教室に通うか、教本を買うしかないかなと。

岸田:
作文教室かあ。

田中:
だけど僕なんて、昔と比べたら記憶力がガタ落ちしてますから。これから文章の書き方みたいな本読んでも、頭に入ってこないんですよ。そもそも「文章が上手くなる268のメソッド」って本なんてね、268のメソッドすらも覚えられへんわという。

岸田:
間違いない。(笑) どうしても今からおもしろい文章書きたいっていう人、いっぱいいると思うんですが。

田中:
なんで書こうとするんですかね。

岸田:
なんで!?

田中:
さっき、読みたいことを書けばいいって言いましたけど。おもしろい文章を読みたいなら、本屋で1,500円も出せば、簡単に買えるじゃないですか。お風呂に入って、本を読んで、布団にもぐって、寝れば幸せですよ。なんでわざわざ、書こうとするのか。

岸田:
そう言われたら、なんで書こうとするんだろう……。仕事だから?

田中:
書くことを仕事にするっていうのは、根拠不明のファンタジーですよ。誰も買う予定がない、見たこともない野菜を、今から作って売りますって言ってるのと同じ。そんな寝ぼけたサムシングが通じますか?

岸田:
寝ぼけたサムシング。(笑)

田中:
「わたしはライターになりたいんです」って言う人によく会いますが、それも寝ぼけたサムシング。

岸田:
でも、ライターっていう仕事は存在しますよね?

田中:
発注があればいいんです。「こういうものを書いてください」っていう、発注があれば。

岸田:
発注がなくても、書く時代になってるような気もします。ブログやSNSで文章を書いて、バズってインフルエンサーになって、それから値がつくような。

田中:
それは僕がいつも言ってる「歩道橋の話」じゃないですか。

岸田:
いつも言われてないですけど、どういうことですか?(笑)

田中:
お金じゃなくて、文章で自分を表現したい?わかった、わかった。それならコピーして、ホッチキスで留めて、歩道橋の真ん中に座って売りなよ、と。

岸田:
完全に初耳です。

田中:
5億回くらい言ってますよ。僕は地べたに座るのも嫌だし、通行の邪魔になるから、歩道橋では売らないけど。

岸田:
わたしも今、歩道橋に行って売ってこい!って言われたら、やらないかも。

田中:
そうでしょ? どうしても今すぐ「書きたい!表現したい!あわよくば売れたい!」っていう人は、歩道橋で文章を売るのと一緒。それが嫌なら、注文がきてから書いた方がいい。

岸田:
なるほどなあ。仕事でもなく、売れたいのでもなく、ただ自分のために書きたいなら、好きなこと書いたら良いと。

田中:
僕が言いたいのはね。第一は、無理に書くな。第二は、書くなら調べろ。以上。本に書いたのもこれだけです。


とにかく調べる。誰かが書いてるなら、読み手でいよう


田中:
たくさんの人に読んでもらえ、SNSでバズり、内容が効率よく人に届き、おもしろくてわかりやすい文章を簡単に書く方法はですね……。

岸田:
……!(ごくり)

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田中:
そんなものはない。

岸田:
そんなものはなかった。(笑)

田中:
ひとつ言えるのは、とにかく調べろっていうことです。岸田さん、小学校の頃に授業で書かされた感想文って得意でしたか?

岸田:
うっ。苦手でした。

田中:
小学校で教わる感想文のなにがいけないかって言うとね。たとえば音楽の授業で、ベートーベンのジャジャジャジャーン!っていう曲を子どもに聴かせます。で、演奏が終わったら「では今から感想文を書いてください」って言うわけですよ。書けるわけねえだろ!

岸田;
書けない。(笑)

田中:
せいぜい「すごかった」「長かった」くらいですよ。でも、ベートーベンは1770年にドイツのボンに生まれて、ハイドンやモーツァルトから古典様式を受け継ぎ、発展させて独自の境地を開き、晩年は聴力を失いながらも傑作を残した……という文脈を知っていれば、書けるわけですよ。

岸田:
どういう状況でジャジャジャジャーン!っていう曲が生まれたのかを想像する文章が書けますね!

田中:
辛いカレーを食べて、感想文を書かせてもみんな「辛かった」って書くでしょう。なにがおもしろいんですか。でも一人だけ「この辛さはガラムマサラとチリパウダーの割合が……」って書いたら、それはおもしろいと思うでしょう。

岸田:
自分が知らないことだから、おもしろいですね。

田中:
つまりこれって、人間が作ったものには必ず理由があって、それをちゃんと調べない限り、一生そのことについて書けないということなんです。国語の授業では、文章の書き方は教えるけど、そのために調べないといけない、ってことは教えてくれないんですよね。

岸田:
たとえばWikipediaで調べたとして、それをそのまま書いたら「Wikipedia太郎(笑)」って呼ばれたりしませんか?

田中:
「Wikipedia太郎」と呼ばれないためには、図書館へ行ってください。

岸田:
図書館へ行く。

田中:
はい。図書館へ行って、司書に尋ねてください。これに尽きます。

岸田:
田中さんは最近も、図書館へ行きましたか?

田中:
はい。小説を発注されたので書いてるんですが、テーマが「元と高麗」なんです。それで図書館へ行って、司書に「1270年から大体100年間の、元と高麗の関係について知りたいんです」って言えば、10分くらいでドサドサドサッと本を持ってきてくれます。

岸田:
司書すごい。調べ物のプロだ。

田中:
膨大に調べたことを、どう編集するかはその人の芸の見せ所です。

岸田:
すでに同じことを調べて書いている記事がある場合、どうやって芸の差別化をすればいいんでしょうか?

田中:
書かないでください。

岸田:
なんと。(笑)

田中:
「僕が言いたいことを書いてる人がいない」という時のみ、書きましょう。文章があふれている今、オリジナリティのある文章を書くのはすごく難しい。どこかで読める内容を苦労してオリジナリティのある文章にして書いても、だれも読まないです。そういう時は読み手でいるのが一番です。

岸田:
なるほど。書くべき文章は自分が書きたくて、かつ、誰も書いてない内容なんですね。

田中:
僕はね、文章で社会に訴えたいことがなにも無いんですよ。とにかく自分のために書いています。


日常に仮説を差し込むのが、ボケるということ

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岸田:
田中さんと話していると、笑ってばかりです。文章というか、まず話がおもしろい。

田中:
これは僕が、フランスの傭兵部隊に加入して、アルジェリアの第一線で戦っていた時に考えていたことなんですけど。

岸田:
それも初耳です。

田中:
アルジェリアだったかな、ナイジェリアだったかな。アッタリナカッタリジェリアかも。

岸田:
アッタリナカッタリジェリア。(笑)

田中:
とにかくボケ倒すことを身上にしています。

岸田:
たしかに、ずっとボケてますね。

田中:
大切なのは「ボケる」のではなく「ボケ倒す」。たとえば会話してると、誰かがボケるじゃないですか。それに対して「ウケる」「おもしろい」って言う人いるでしょう。

岸田:
はい。

田中:
それじゃただの審査員なんです。参加しないと!ボケるっていうのは、僕が「アルジェリアで戦っていて」というボールをコートに投げ入れたら、「俺もナイジェリアで戦っていて」とか「アッタリナカッタリジェリアの旧称ね」とか言って、とにかくボールを蹴っていくことです。

岸田:
ただ笑うだけでは、そのボールを素通りしてしまってるんですね。だけどヘタにボケて、すべったらつらくないですか?

田中:
滑るのがスキーや。

岸田:
急にスキーの話に!(笑)

田中:
ボケに優劣なんてないんです。おもしろいとか、おもしろくないじゃなくて、参加することが大切。

岸田:
思考停止せず、とにかくなんでもいいからボールを蹴らないといけないんですね。

田中:
ボケがうまい人はね、仮説を立てることがうまいんです。当たり前の日常に差し込まれた仮説のことをボケって言うんです。「これがもし○○だったらどうなるか」「ここでもし○○って答えたらどうなるか」っていう。

岸田:
ああ!妄想というか、例え話というか。でもそういう話や文章はおもしろいと感じることが多いかもです。ボケるには練習が必要ですか?

田中:
ボケがきたらとにかくボケ倒す、と決めていれば大丈夫です。

岸田:
ちなみに、ツッコミは?

田中:
これまでに5兆回言ってきましたけど、ツッコミなんていらないんですよ。「ツッコミ」というのは漫才という舞台芸にだけ必要なに「役職」なんです。漫才はツッコミを入れると次の話に進むけど、日常でツッコミを入れたらそこで話が終わります。乗っかり続けてください。

岸田:
肝に銘じます。

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田中:
人がする会話の一番素晴らしい状態は、みんながボケまくって、なんの話をしてたかわからなくなることだと思います。僕はその状態を「会話の成仏」って呼んでるんですけど。

岸田:
「会話の成仏」(笑)

田中:
僕らは医者でも科学者でもないから、無駄な話しかできない。だから、無駄な話につまらないボケを重ねて、なんでこの話してたんだっけ?にたどり着くのが理想のゴールです。

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なんと岸田奈美が渾身のミスで「大きなしゃもじ」の持参を忘れたため、急きょ「小さなしゃもじ」を持参し、田中泰延さんにサインを書いてもらいました。
この記事をTwitterでシェアしてくださった方の中から抽選で1名様に、プレゼントします。しゃもじがほしい旨を書いてくださると、当選確率が上がります。

当選した人には6月15日までに岸田奈美のTwitterからDMをお送りします。

ちなみに突撃が終わってから『読みたいことを、書けばいい。』を読んだら、本当に田中さんが言ったことと一字一句同じことが書かれていて、笑ってしまいました。5億回くらい言ってこられたことなんですね、きっと。


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