ビール「ふぞろいの麦たち」を持ったら、noteのあの子と乾杯したくなった
京都で障害のある人たちと一緒に作られている、絶品のクラフトビールが手に入った。発売した2ヶ月前は、すぐに完売してしまったらしい。(わたしがnote書きたいって言ったら、600本作ってくれることになったよ/相変わらず趣味で、いい商品は自分で取材して紹介してるよ)
「ふぞろいの麦たち」(ペールエール)
群馬県前橋市の「菜の花」で、障害のある人たちがていねいに育てた大麦を使っているのだけど、大量生産の大麦に比べると大きさがまちまちになる。
ふつうならそういう大麦は、有名なビール会社では扱えないのだけど、このビールでは工夫をこらし、特性をうまく活かしている。だから、「ふぞろいの麦たち」。
ホップの一部は、これも障害のある人が関わる宮城県石巻市の「イシノマキ・ファーム」で栽培されたものを使っている。
太陽がパッと差し込む壁画のように繊細で美しいラベルは、自閉症のアーティーストがコピックで描き、才能をほとばしらせている。ラベルを貼るのも一枚ずつ手作業。剥がすのもったいない。
醸造と販売にも、自閉症の人がかかわっている。畑からグラスまで、思いと時間と才能が込められた、このビール。
一口、含んで飲み込んだら。麦の味と香りが。ぶわって。
どれくらい、ぶわってなったかというと。
脳裏にこのビジョンが浮かんだ。教養がないのでこれが麦かどうかもわからないんだけど、とにかく、このビジョンが浮かんだ。それくらいの麦。
あと、なんだ……爽やかで、甘い蜜柑とか柚子とかの味がする。華やかだ。
ちなみにわたしは「大部屋でオッサンがオッサンのために開く、ゴールの存在しない宴会」で主役を担う、あの苦くて辛い瓶ビールが飲めない。あの瓶ビールは「誰が主催してんだかわからない、立食パーティの丸い机の中央」にも置かれている。沖縄のオジィが声高に自慢してるビールはギリ飲める。
でも「ふぞろいの麦たち」は、美味しく飲めた。ビールってこんなに華やかですっきりしてるんだ、と思った。
ただ、惜しむべきが。
このわたしが下戸ということである。学生時代、ゼミの飲み会でワインをグラス二杯飲んだら、翌朝未明アジサイの植え込みのなかで発見されたことがある。
どんなにおかわりしたくても、一杯が限界なのだ。ならばこの一杯の価値をどれだけ上げられるか。それは“だれと飲むか”だ。
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気になるあの子と、ふぞろいの麦たちで乾杯
というわけで、いま一番わたしが乾杯したい人と「ふぞろいの麦たち」を飲むことにした。
しーちゃん(島田彩さん)だ。「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」などのnoteで、いまをときめきまくっている、しーちゃんだ。
わたしは以前「島田彩さんのnoteに嫉妬してしまった、アホなわたしの備忘録」という、しーちゃんにとっては当たり屋行為以外のなにものでもない文章を書いたことがあって。いや、笑ってOKもらってたけど。
しーちゃんが東京に来ているというので、ほな、美味いビールでなんやかんや流そうぜ、と持ちかけた。再び当たり屋行為以外のなにものでもない。でもしーちゃんは、優しくて人間ができているので、今日も今日とて笑ってOKしてくれるのだ。
新宿御苑駅で待ち合わせたのだけど、なぜかしーちゃんは、一心不乱に東京のせわしない道路を見ていた。なかなかおらんのよ。待ち合わせで背を向けてる人は。見つけられんから。
「うわあ、うれしい。奈美ちゃんがTwitterで言うとったビール、気になっててん」
しーちゃんが嬉しそうに言った。そしてわたしたちは、ビールを飲める場所へ移動する前に、100円ショップを訪れた。
なぜかというと、栓抜きがなかったからである。
キッチンバサミでも栓を抜けると聞いて、出がけに慌てて生のまま持ってきたのだけど、明らかに職務質問を受けたらやばい様相になった。しーちゃんは「凶器やん」とつぶやいた。
100円ショップに入って、うろうろするわたしたち。
「栓抜きはたぶん、このくだりにあると思うで」
「あのな、しーちゃん。場所を表すときにくだりとは言わんのよ。100円ショップを物語として捉えとるやん」
買った。準備は万端だ。
「これうちら、どこでビール飲むん?」
「新宿御苑っていうでっかい公園があるから、そこにしよ」
しーちゃんが絶句した。
「えっ……そういうでっかい公園って、アルコール持ち込んだらアカンのちゃうん?」
アカンかった。
愚かすぎる。ちょっと考えたらわかるのに。
完全に頭のなかに、大阪市西成区の路上を自宅の四畳半のように使い、浴びるように酒をかっくらっている大人のイメージしか存在してなかった。あれは普通ではないのだ。
「新宿御苑に集合って聞いたときから、おかしいなって思ってんけど」
「ええー!わかってたなら、教えてやあ」
「奈美ちゃんのことやから、なんか良い考えがあるんかなって思って」
「良い考えなんてないよ。なにわの想像しかしてなかった」
「ここは東京やでな」
とりあえずわれわれは、いい感じの場所を見つけるまで、北北東に向かって進むことにした。
どの信号を見たらいいか迷ってしまう横断歩道があった。まるで人生のようだ。
15分くらいダラダラと歩いて、日も暮れはじめたころ、誰もいないノスタルジックなところがあった。
かわいい。嫉妬するぞ。
急に呼び出されて、こんな宴でもてなされたら、石のつぶての一つでも投げたくなるものだけど、しーちゃんはウキウキでチーズとうまかつを仕入れていた。
リュックサックから取り出した、なんかくしゃくしゃの包み紙を、「凶器」を使ってテーブルと座布団にした。天才(天賦の才)。
念願も念願の「かんぱ〜〜〜い」!
わたしが持っているのは、「ふぞろいの麦たち」と一緒に製造されている「スウィートジンジャーエール」だ。しょうがの香りと甘みがすごい。
「……うまっ!」
「せやねん、うまいねん」
しーちゃんは8年前、宮城県石巻市で、元気いっぱいの高校生が運営するカフェの企画やマネジメントを頑張っていた。このビールのホップも、同じ土地で採れたもの。
8年前といえばわたしも、ベンチャー企業の創業メンバーとして顔からすべての液体を垂らしながら頑張っていたときだったので、昔話に長居植物園くらい花が咲いた。
日もとっぷりと暮れてから、なぜか子どもが滑り台をすべりにきた。公園で一番地位が高いのは子どもなので、われわれは即座に立ち上がり「おいで、おいで」といざなった。
彼はキャッキャと笑いながら、三度も滑り台をすべっていった。年をとったら、こういう風に生きたいものである。
立ったついでに、わたしたちはお互いをライカというカメラで撮りっこした。年をとると、立ったあとにそう何度も座ったりできないのである。
「しーちゃん、お父さんがカメラマンやねんな?」
「せやで。でも、うちはそんなにうまくないねん」
「うん、なんか、めちゃくちゃ脇が開いてるし。そんなに開いてる人おる?ってくらい開いてる」
「うわっ!脇って締めるんやっけ。締めとこ」
「今度は締めすぎて、逆三角形の人みたいになってる」
逆三角形のしーちゃんに撮ってもらった写真は、楽しそうだった。実際の乾杯はこの写真にあらわれてる3倍くらい、楽しかった。
しーちゃん、友情出演、ありがとうございました。こんど「ふぞろいの麦たち」いっぱい送るからね、奈良に。
ビールが余ったので、そのあと、糸井重里さんのところに本とポップコーンと一緒に持っていった。
「きみほんと、いろんなもの売りにくるねえ。まだかばんの中からなんか出てくるんでしょ?ガマの油とか」
今度はガマの油を持っていこうと思った。
おいしくて、かっこいい、クラフトビールができたわけ
ところ変わって、京都の河原町近くにあるビール パブ「ICHI-YA」にやってきた。
常備樽生クラフトビールが楽しめるお店。ここをプロデュースしている「一乗寺ブリュワリー」と、「西陣麦酒」が手をとりあって生まれたのがさっきの「ふぞろいの麦たち」だ。京都の結晶!
一乗寺ブリュワリーの高木俊介さん。
精神科医として、統合失調症などの患者さんの在宅ケアに日々奔走しながら、ビール醸造所の代表もしている。
「どうして精神科のお医者さんなのに、障害のある人の仕事を作ろうと……?」
お医者さんだけで相当儲かって暮らせるのでは、という不躾すぎる質問はビールと一緒に喉の奥へ飲み込んでおいた。
「統合失調症の人たちと長く関わっていて、『仕事』というものが彼らの回復にとても役立つとわかりました。外へ出て、人と関わり、やりがいを持つことを求めていると」
精神病をかかえる人たちの多くは、生きづらさを抱えている。その原因は、他人と対話させず、分断していく社会にあると、高木さんは言う。
「誰とも喋らずに流れ作業の仕事もあるけれど、やっぱり対話がほしい。ビールを作って、詰めて、運んで、売るまでの間にたくさんの人と関わりながらビール片手に『きみも違うね、おかしいね』って笑いながら、違いを受け入れられる人を増やしたいなと思ったんです」
ええ話や。
これが一乗寺ブリュワリーのクラフトビール。
一番手前の「デストロイエンジェルIPA」という高アルコール度でキレのあるコクのビールは、漫画「琥珀の夢で酔いましょう」で主役級の扱いで紹介された。名前よ、名前。
活動がユニークなNPO法人スウィングさんに所属するアーティストがコラボして書き下ろした、限定ラベルです。
高木さんがビールの醸造をはじめたあと、特定非営利活動法人HEROESの松尾浩久さんに出会う。
松尾さんも、自閉症の人たちとビールを作りたいという夢を持ち、「西陣麦酒」という醸造所を立ち上げた。
「松尾さんも、どうしてビールを選んだんですか?障害のある人が作るなら、もっと簡単な商品もありますよね」
「ビールの醸造はたしかに難しいけど、一番の理由は、かっこいいからですね!」
インタビューに慣れていないという松尾さんは、恥ずかしそうに笑った。
「こだわりがあって、ちゃんとおいしくて、こういうオシャレなお店で楽しく飲んでもらえるビールを作る仕事って、誇りを持てるじゃないですか」
そう、たしかに、西陣麦酒のビールはかっこいいのだ。瓶をそろえて、家の目立つところに置いておきたくなる。
木陰でこころとからだを一休みさせたくなる「柚子無碍(ゆうずうむげ)」
家事を終えたお母さんがこっそりアロマを楽しむように飲みたい「白夜にレモンエール」
農作業の休憩時にのどを潤すビールとして生まれた「室町セゾン」
名前とコンセプトからして、かっこいい。アジアンカンフージェネレーションのアルバム名って言われても、気づかず喜んで買ってしまう。
「障害のある人が『僕たちはこんなにかっこいいものを作っている』って、誇れるような仕事にしたかった」
この尊さはわたしもよくわかる。障害者の仕事というとどうしても、簡単な単純作業、というイメージがある。脳裏に、今日は仕事でこんな風に役立てた、と嬉しそうに報告してくる実家の弟の姿が浮かんだ。
「でも結局すごく大変で、醸造の免許も、開業ギリギリまで取ることができなくて肝を冷やしたんですけど……こうして商品にできて本当によかったです」
ふたりが手をとりあったなら、僕らは乾杯するしかない
一乗寺ブリュワリーと西陣麦酒。京都のクラフトビールを障害のある人たちとともに作るこの二醸造所が企画し、西陣麦酒が醸造から販売まで担うのが「ふぞろいの麦たち」だ。
「いわば同業種のライバルなのに、お二人はどうして協力することになったんですか?」
気になっていたことを、聞いてみた。
「同じ京都で、同じビールで、障害のある人たちのためにって同じ志を持っている。それでおもしろそうなんだから、どうせなら一緒にやりましょうって」と、高木さん。
「高木さんたちにはいろいろ教えていただき、助かりました。自分のところだけが繁盛するんじゃなくて、障害のある人が働く選択肢を増やしたい。このクラフトビールで京都を盛り上げていきます」と、松尾さん。
「ふぞろいの麦たち」ほか、彼らがつくるクラフトビールは京都のレストランやパブに卸していたのだけど、相次ぐ閉店や休業の影響が痛くひびいているとのこと。こりゃいかんぞ。
京都の二醸造所が誇る、すぐ完売してしまうレアなクラフトビールを片手て、この秋はあの子と乾杯してみませんか。
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