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きみの障害ってやつはどの程度だい

弟と母を、車で病院まで送っていくというお役目ができた。

きたきたきた。運転免許を取ってから、そういうのが早く回ってこないもんかと沼のワニみたいに待っていた。

「……しゃあないなあ!」

決まったあ。言ってみたかったあ。

「ほんでも、どっか悪いんかいな」

「悪くないねん。調査やで」

「検査!?」

「調査やっちゅーねん」

家族の中でわたしだけが知らなかったのだが、数年に一度、弟は病院で障害認定調査というのを受けているらしい。

弟は“重度”の知的障害、という認定を受けている。ほかに中度、軽度があって、弟のはいちばん重い。

「そんな、今年のみかんの出来、みたいな仕組みやったんや」

「こらっ」

「ってことは、いきなり変わったりすんの!?」

「聞いたことないけどなあ……」

知的障害は治らない。

わたしが7歳かそこらで、弟の謎を明かされたとき、真っ先にたずねたことだ。よく覚えてる。

だったら、なんで毎年、調査なんかやるんだろう。やっぱちょっとは治るのかしら。

「あんた、ちょっとかしこなってたらええなあ」

リビングでひたすらタオルを折りたたんでいる弟の角刈りを、みかんを愛でるようになでた。

急に母が、真顔になった。

「そうなると、いろいろ具合が悪くなるんやがな」

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。